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ブロードリスニングとは〜AIの力で大衆の声を効率的に可視化する

ブロードリスニングとは?

「ブロードリスニング」とは「ブロードキャスト」の逆の概念です。一人の声をコピーして大勢に拡散するのが「ブロードキャスト」ですが、「ブロードリスニング」は大勢の声をAIの力で効率的に要約してダイジェストを作ることです。

「ブロードリスニング」という語は、台湾のデジタル大臣オードリー・タン氏が提唱する「Plurality(多元性)」の概念の中で用いられています。

日本では、AIエンジニアで2024年の都議選にも出馬した安野たかひろ氏のチームが「ブロードリスニング」の手法を紹介し、「テクノロジーを使って多くの声を収集し、見える化する」という取り組みを実践しています。

ブロードリスニングでは、SNS、Googleフォーム、アンケートや対面での聞き取りなど、多様な情報源から収集した膨大な意見を、AI(人工知能)を使って分類・分析した上で理解しやすい形にまとめることが特徴です。


従来の意見収集との違い

従来の意見収集とは、には以下のような課題がありました。

  1. 意見を集めるのが大変
    多くの人から意見を集めること自体が大変です。
  2. 情報の偏り
    意見を聞ける人が限られてしまい、結果が全体を反映していないことがあります。
  3. 集約の困難さ
    数千件、数万件の意見を人が目視で読み解くのは現実的ではありません。

ブロードリスニングはこれらの課題を解決します。

  • AIによるデータの整理
    人間が読むのに何時間もかかるデータをAIが数分で分類。重複や類似意見を統合し、特に注目すべきテーマをピックアップします。
  • 自由記述の意見も集約可能
    選択肢による回答だけでなく、自由記述欄に書かれた意見など非構造的なデータも分析できます。
  • 洞察の可視化
    分析結果を図表やダッシュボードとして視覚化し、意思決定者が一目で全体像を把握できるようにします。

AIを使うことで、多くの市民が何を求めているのかを効率的に可視化することができるようになったのです。


ブロードリスニングのプロセス

以下は、ブロードリスニングがどのように意見を収集・整理し、意思決定者に役立てられるかを示したプロセスです。

1. 意見の収集

  • データソース
    SNS、レビューサイト、ブログ、アンケート、メール、郵送、対面など、さまざまなデータ元から意見を集めます。

  • 数万件規模の意見でも対象にできます。

2. AIによる分析

  • 分類
    AIが自然言語処理を使い、収集した意見をテーマ別に分類します(例:「納税に関する意見」「公共財に関する意見」など)。
  • 感情分析
    意見が肯定的か否定的かを自動判別。
  • トレンド検出
    突然増加したテーマや注目のキーワードを特定。

3. 洞察の提供

  • 要約の自動生成
    「多くの人が税率の高さを課題として挙げています」といった形でAIがまとめます。
  • ダッシュボード化
    視覚的に結果を確認できるツールを提供できます。

4. 意思決定者への共有

  • 必要な情報だけに絞られたレポートを提供し、意思決定を迅速化します。

簡略化して図解すると以下のような流れになります。

1.収集

  • SNSコメント
  • レビュー
  • アンケート回答

2.AIが分析

  • 分類
  • 感情分析
  • トレンド抽出

3.洞察

  • トピックごとの重要性を洞察
  • 全体要約
  • 図表化

4.意思決定

  • 政策の策定
  • 製品の改善案策定
  • 戦略の決定

ブロードリスニングと「デジタル民主主義」

こういったブロードリスニングのプロセスは、民主主義を実現するための強力な手法として注目されています。

SNSやオンラインフォーラム、アンケートなど多様なデータソースから市民の声をAIで分析・集約し、政策に反映することができるからです。この手法を活用することで、従来のトップダウン型の政治では拾いきれなかった多様な意見や潜在的な課題を浮き彫りにできます。

ブロードリスニングは、透明性と参加型の民主主義を進め、政治と市民をつなぐ新しい形のコミュニケーションを可能にします。

台湾政府が推進した「vTaiwan」

vTaiwanは、台湾政府が推進するオンライン熟議プラットフォームで、市民がオンライン上で政策形成プロセスに積極的に参加できる仕組みです。2014年に初めて導入され、ライドシェア規制などの社会課題を効果的に解決しました。

安野たかひろ氏によるデジタル民主主義2030プロジェクト

AIエンジニアの安野たかひろ氏は、2025年1月に「デジタル民主主義2030」を掲げた新プロジェクトを発表。

オープンソース形式でブロードリスニングの仕組みを公開し、意見集約のプロセスの透明化を図りながら効果的に多くの意見を収集し、政策に反映させる仕組みを構築するとしています。


ブロードリスニングのメリット・デメリット

メリット

  • 効率性:膨大な意見を短時間で分析できます
  • 網羅性:多様なデータソースを活用し、幅広い層の意見を把握できます
  • 意思決定の迅速化:必要な情報だけに絞ることもできます

デメリット

  • バイアス:意見を要約・収集する過程でバイアスが入る可能性は排除できません
  • 参入障壁:現状では導入する場合に開発エンジニア(IT・システムの知見のある人材)が必要です
  • 利用障壁:SNS等のデジタルツールを利用しない層からの意見を吸い上げる機会が減りがちな面があります

AIを使って大衆の意見を効率的に可視化

ブロードリスニングは、単なる「意見収集」ではなく、AIを活用して膨大なデータを効率的に整理し、意思決定者に実用的な洞察を提供する画期的な手法です。

これにより、従来型の意見収集の課題を解消し、迅速かつ的確な意思決定を支援します。この手法は、特に政治の政策立案の過程を、密室政治から公開されたオープンな議論の場へと大きく変革する力を持っています。

行政機関が政策や条例などを策定する際に、事前に案を公表して国民や市民から意見を公募する”パブリックコメント“についても、今後はブロードリスニングの手法が取り入れられていくでしょう。


民主主義の革命的手法

そして、「ブロードリスニング」は「偉い人」が「下々の者たち」の声を聞く技術ではなく、人々それぞれが、大勢の人の意見を理解する能力が強化される技術です。

審議会や代議士など一部の選ばれた人たちが法律や条例を作るのではなく、国民の意見が直接反映されるという、ルールの決め方そのものが変わる、革命的な手法だと言えます。

参考:「ブロードリスニング:みんなが聖徳太子になる技術」西尾泰和氏

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