「ブロードリスニング」とは「ブロードキャスト」の逆の概念です。一人の声をコピーして大勢に拡散するのが「ブロードキャスト」ですが、「ブロードリスニング」は大勢の声をAIの力で効率的に要約してダイジェストを作ることです。
「ブロードリスニング」という語は、台湾のデジタル大臣オードリー・タン氏が提唱する「Plurality(多元性)」の概念の中で用いられています。
日本では、AIエンジニアで2024年の都議選にも出馬した安野たかひろ氏のチームが「ブロードリスニング」の手法を紹介し、「テクノロジーを使って多くの声を収集し、見える化する」という取り組みを実践しています。
ブロードリスニングでは、SNS、Googleフォーム、アンケートや対面での聞き取りなど、多様な情報源から収集した膨大な意見を、AI(人工知能)を使って分類・分析した上で理解しやすい形にまとめることが特徴です。
従来の意見収集とは、には以下のような課題がありました。
ブロードリスニングはこれらの課題を解決します。
AIを使うことで、多くの市民が何を求めているのかを効率的に可視化することができるようになったのです。
以下は、ブロードリスニングがどのように意見を収集・整理し、意思決定者に役立てられるかを示したプロセスです。
簡略化して図解すると以下のような流れになります。
こういったブロードリスニングのプロセスは、民主主義を実現するための強力な手法として注目されています。
SNSやオンラインフォーラム、アンケートなど多様なデータソースから市民の声をAIで分析・集約し、政策に反映することができるからです。この手法を活用することで、従来のトップダウン型の政治では拾いきれなかった多様な意見や潜在的な課題を浮き彫りにできます。
ブロードリスニングは、透明性と参加型の民主主義を進め、政治と市民をつなぐ新しい形のコミュニケーションを可能にします。
vTaiwanは、台湾政府が推進するオンライン熟議プラットフォームで、市民がオンライン上で政策形成プロセスに積極的に参加できる仕組みです。2014年に初めて導入され、ライドシェア規制などの社会課題を効果的に解決しました。
AIエンジニアの安野たかひろ氏は、2025年1月に「デジタル民主主義2030」を掲げた新プロジェクトを発表。
オープンソース形式でブロードリスニングの仕組みを公開し、意見集約のプロセスの透明化を図りながら効果的に多くの意見を収集し、政策に反映させる仕組みを構築するとしています。
ブロードリスニングは、単なる「意見収集」ではなく、AIを活用して膨大なデータを効率的に整理し、意思決定者に実用的な洞察を提供する画期的な手法です。
これにより、従来型の意見収集の課題を解消し、迅速かつ的確な意思決定を支援します。この手法は、特に政治の政策立案の過程を、密室政治から公開されたオープンな議論の場へと大きく変革する力を持っています。
行政機関が政策や条例などを策定する際に、事前に案を公表して国民や市民から意見を公募する”パブリックコメント“についても、今後はブロードリスニングの手法が取り入れられていくでしょう。
そして、「ブロードリスニング」は「偉い人」が「下々の者たち」の声を聞く技術ではなく、人々それぞれが、大勢の人の意見を理解する能力が強化される技術です。
審議会や代議士など一部の選ばれた人たちが法律や条例を作るのではなく、国民の意見が直接反映されるという、ルールの決め方そのものが変わる、革命的な手法だと言えます。
参考:「ブロードリスニング:みんなが聖徳太子になる技術」西尾泰和氏